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仙台高等裁判所 昭和44年(ラ)35号 決定 1969年7月21日

抗告人 大橋基人

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

よつて按ずるに、金銭債権の満足を得るためになす債務者が第三債務者に対して有する有体物の引渡又は給付の請求に対する強制執行は、民事訴訟法第六一四条の規定により同法第六一五条、第六一六条及び第六一七条の規定に従うべきものであることは右規定上明らかである。しかして第六一六条所定の不動産の請求に対する強制執行は、不動産の引渡又は給付請求権そのものにより債権者の執行債権である金銭債権を満足させようとするものではなく、債務者が第三債務者に対して有する不動産の請求権を実現してこれを債務者に帰属せしめたる後債務者の不動産に対する強制執行の方法により執行請求権を満足させようとするものであることは同条第二項の規定と対比してみれば明瞭である。換言すれば、不動産の引渡又は給付の請求に対する強制執行は、債務者の第三債務者に対する不動産の引渡請求権又は所有権移転請求権を差押え、該不動産について保管人にその占有の移転を受け、或は債務者名義にその所有権の移転を受けた後において、債務者の所有に属する該不動産を強制競売又は強制管理の方法によつて換価し、その売却代金又は管理による収益金をもつて執行債権である債権者の金銭債権の弁済を受けさせる方法に外ならないのであるから、不動産の請求権の強制執行については同法第六一三条の準用はないものというべく、従つて右請求権自体を同条の特別の換価方法によつて換価することはできないものと解すべきである。

してみると、抗告人の本件特別換価申立を却下した原決定は相当であり、右と異る見解の下に原決定の違法をいう抗告人の主張は採用できない。

よつて本件抗告はその理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用については民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 村上武 松本晃平 伊藤和男)

(別紙)

抗告の趣旨

原決定を取消し相当の裁判を求める。

抗告の理由

抗告人は、昭和四四年五月一日盛岡地方裁判所が昭和四四年四月二八日なした抗告人の特別換価命令申請を却下する決定に対し御庁に抗告をなしたが抗告の理由は左記のとおりである。

原決定は、法律の解釈を誤つた違法がある。

一、原決定はその理由中において「有体物の引渡または給付請求権に対する執行については民事訴訟法第六一四条が特別換価方法を定めた同法第六一二条(第六一三条の誤記と思われる)の準用を除外している趣旨に照し、不動産所有権移転請求権に対しては特別の換価方法によつて換価することはできない旨説示しているが我々民事訴訟法の母法である独民事訴訟法においては我々民訴第六一四条に対応する第八四六条においては特別換価の規定に関する我々民訴第六一三条に対応する独民訴第八四四条の規定を準用している。

従つて我々民訴第六一四条が同第六一三条を準用しなかつたのは立法の際の誤りであつて、有体物引渡、または給付請求権に対する強制執行について特別換価方法をとつても何等差支ないとするのが通説である。(小野木常「強制執行法概論」二五〇頁、兼子一「増補強制執行法」二一二頁、吉川大二郎「強制執行の諸問題」一三八頁、執行保全研究会〔主宰山本実一〕「執行保全手続実務録」二巻一八四二頁一八五四頁参照)

二、原決定は、また前示説示に続いて「同法第六一七条が転付命令を発することができないとしている趣旨に照し」でも特別の換価方法による換価はできないとしているが、右六一七条は差押えられた請求権には券面額がないので転付命令を発することはできない旨当然の事理を規定しただけのものでありこれは独民訴第八四九条に対応するものであるが、右第六一七条の規定から特別換価方法による換価は許されないとの趣意は生れない。

三、原決定は、その理由冒頭以下において「不動産の所有権移転請求権に対する強制執行は-中略-右請求権を差押えたうえ民事訴訟法第六一六条の規定の趣旨に従い、選任された保管人に取立機能(給付受領権限)を与えて取立てさせること(-略-)によつてなし、かつこれをもつて終り、その後は第三債務者が右取立に応じ、或は応じないときは取立提起することによつて目的不動産の所有権が債務者に帰属した場合、当該不動産自体に対する強制執行に換価すべきものである」旨説示している。しかしながら、強制執行制度は債権者と債務者間の利益の調和を企図し、且つ簡易迅速に請求権の内容の実現を招来させることをその理念としておるのであり、本件の如く差押えた請求権が反対給付に係るものでその取立が困難である場合、債権者が原決定説示にある補助執行を経て強制競売に至る方法を選ぶか或はこれを避けて簡易迅速な特別換価の方法による換価の下で債権の満足を得るかは債権者の選択に任せられているところである。

本件のような場合にこそ特別換価の方法が許さるべきである。よつて、原決定は失当と思料するのでその是正を求めるため本抗告に及ぶ次第である。

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